ノワールというには人々が良い人
〜都立雑司が谷霊園には「鬼あざみの入口」という道標が立っています。本作の主人公、鬼あざみ清吉の墓があるのです。水木しげる『カラー版妖怪画壇』(岩波新書)にもこの墓は紹介してあったなあ。『お鳥見女房』で雑司が谷を舞台に下級武士の生き様を描く作者が、江戸の漂泊民・無宿者たちを取り上げた本作。雑司が谷つながりかと思ったら、本作には登場〜〜しません(墓は大正の頃浅草から引っ越してきたので)。残念。 「ノワール」と称するだけあって、主人公はファム・ファタールです。宿命の女。彼女がいかにして盗賊・鬼あざみとかかわっていくか、しっとりとした筆致で綴られます。 しかしですね、この作者の持ち味はしっとり風味であって、暗黒荒涼絶望味ではないの。現代的なノワールを期待するとハズ〜〜レ。誰にも諸事情があって悪の道に入ったり捕まえる側に回ったりするという、この作者には人々への愛情の視線が常に在るため、非情に徹し切れません。この温かさは、作者の限界であると同時に大きな可能性ではないかと、一ファンは期待しています。到来物の高級和菓子のような、美味しいけどちょっと食い足りない作品でした。でも、美味しいんですよ。ホント〜〜。〜
講談社
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